大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)903号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由について。

論旨は、強迫を理由に本件和解の意思表示を取り消す旨を主張するが、記録に照らしても、上告人らが原審において強迫にあたる具体的事実を主張した形跡はないから、原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ。)が右取消しの主張を採用しなかつたことに違法はない。

次に論旨は、選定当事者である上告人らが選定者竹村昭夫から和解の権根を与えられていなかつたから、本件和解は無効であると主張する。しかし、選定当事者は、訴訟代理人ではなく当事者であるから、その権限については民訴法八一条二項の適用を受けず、訴訟上の和解を含むいつさいの訴訟行為を特別の委任なしに行なうことができるものであり、かつ、選定行為においてもその権限を制限することのできないものであつて、たとい和解を禁ずる等権限の制限を付した選定をしても、その選定は、制限部分が無効であり、無制限の選定としての効力を生ずるものと解するのが相当である。原判決は本件和解当時竹村昭夫が上告人らを当事者として選定していた事実を認定しているものと解されないことはなく、右認定は記録に照らして是認できないものではないから、その選定において、特に和解の権限が授与されず、かえつて所論のようにその権限を与えない旨の留保が示されていたとしても、上告人らが訴訟上の和解をすることは当然にその訴訟上の権限に属するところであつて、それが選定者に対する受任義務に反するかどうかは別として、そのために和解の効力が妨げられるものではないというべきである。

したがつて、本件和解が有効に成立したものと認めた原判決の結論は正当であつて、その判断に所論の違法はなく、なお論旨中違憲をいう部分もその実質は右と異なる見解に出で原判決の判断の違法を主張するものであつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例